2007年04月28日

瀬尾まいこ 『天国はまだ遠く』 新潮文庫 ★★★★ 自然の中での人生の再生と旅立ち

天国はまだ遠く

著者:瀬尾まいこ

出版:新潮社

価格:362円 (税抜)

ISBN:978-4-10-129771-2

評価 ★★★★

 私はこの地が好きだ。朝露に湿った道を歩くのも、夕焼けにそまる枯れ枝を見上げるのも大好きだ。葉の匂い、風の音、きれいな水、きれいな空気。どれも捨てがたい。おいしい食事に、心地よい眠り。この生活にも身体が順応している。古い民家だって、鶏たちだって気に入っている。だけど、ここには私のするべきことはどこにもない。自然は私を受け入れてくれるしたくさんのものを与えてくれる。でも、私はここで何をすればいいのかちっともわからない。(P.169)

自殺をしにやってきた小さな漁港で、自殺に失敗。一泊1,000円の民宿での作り、育て、採り、食べる生活で再び人生に立ち向かっていく気力を取り戻す女性の姿を描く。

要約してしまえばそれだけなんだけど、それに至る描写が素晴らしい。恋愛や事件で盛り上げるわけでもなく、田舎生活に過剰な演出があるわけでもなく、淡々と、それでいて空気の冷たさが感じられるようなみずみずしい文章でつづった。読んでいて背筋が伸びるような作品。

瀬尾まいこの力を再評価。