角田光代 『トリップ』 光文社文庫 ★★★★ さすがの角田光代の息(生き?)苦しさ
P.20すみれさんに聞いた依田くんの同僚の話をときおり思い出した。美術室に向かう途中の廊下で、購買部にシャープペンシルの芯を買いにいって順番待ちをしているとき、黒板に残った消し残しの文字を眺めながら、ふと、次の一瞬、わたしはあーとかぎゃーとか叫びだして、おまえらの魂胆はわかっている、とかなんとか言って暴れるかもしれない、と思った。その光景は記憶みたいにはっきり思い浮かべることができた。
駆け落ちをすっぽかされた女子高生、LSDがやめられない主婦、離婚の慰謝料で喫茶店を始めた女性、誰もが小さな不幸ともいえないような不幸をかかえて現実の生活とのズレに苦しんでいる姿を描いた。
ちょっとした事件と、その後もまったく同じ生活が続く息苦しさを描かせたらさすがにうまい。
調べてみると角田光代は10カ月ぶり。だけど、やっぱり角田光代は角田光代で、安定したクォリティを発揮してくれていて嬉しい。
なかでは『君の名は』と『牛肉逃避行』が好きかな。


