小川糸 『食堂かたつむり』 ポプラ社 ★★★★★ 圧倒的な生命感
(P.15)私は声を喪失した。
少し驚いたけれど、哀しくはなかった。痛くも痒くも苦しくもない。ただ、その分、体が軽くなった気がした。それにもう誰とも話したくない、と思っていたからちょうどいい。
私はじっと、自分だけに聞こえる心の声に耳を澄ましてみようと思う。そうすべきなのだ、きっと。
ある日部屋に帰ると、インド人の彼氏と共にテレビも洗濯機も冷蔵庫もなくなって、ショックから声も失ってしまった女性が、田舎でスナックをやっている母の元で食堂かたつむりを開く。そしてお客や近所、料理との関わりから、声を取り戻す話。
これだけ書いてしまうと、瀬尾まいこの『天国はまだ遠く』などと同じくありふれた筋書きなんだけど、料理と生命の描写が素晴らしい。
実はちょっと前にこの本を読んだんだけど、著者にこれ以上の話を書く意欲があるのか分からなくて、感想を書けずにいた。でも先月、『喋々喃々』が発行されたので一安心。


