角田光代 『ひそやかな花園』 毎日新聞社 ★★★★ 自分の生の揺らぎと向き合うこと
第四章(P.272)「あ、そうなんだ。絵うまかったもんね」
父は言い、樹里は、あ、と思う。あ、この人、そうか、他人なんだ。いや、他人でいると決めたんだと。樹里は曖昧に笑って、メンチカツの付け合わせのキャベツにソースをまわしかけた。父は、職業を言ったとき、たいていの人が見せる顔つきをした。何か特殊な仕事らしい、きっとすごいんだ、でも、どうすごいのかはよくわからない、ああ話がうまく続かない。そんな顔。そして樹里は考えすぎかもしれないと思いつつ、邪推する。今の自分の言葉は、また父を傷つけたかもしれない。賞をもらった幼い日とおんなじに。
子供の頃の夏休み、数年開催された別荘でのキャンプ。年の近い、けど親戚じゃない。しかも一人っ子ばかり。この不思議なキャンプには親たちの秘密があった。
自らの出生に関する秘密を知り、それが自らの今のありように直接的に影響しているのか苦悩する姿を描く。登場人物の状況は普遍的ではないけど、誰の心にも何かを残す。
新聞小説だからか、ちょっと間延びした面がないともいえないけど、一気に読ませる力がある。
角田光代は本当にちゃんとしか作家になってしまったね。



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